【日本出版インフラセンター、システム開発】 【万引き防止や流通構造改善へ詰め】
出版流通の改善を主な目的に、日本書店商業組合連合会、日本出版取次協会、日本書籍出版協会、日本雑誌協会、日本図書館協会の5団体が2002年に設立した一般社団法人日本出版インフラセンター(JPO、東京都新宿区、相賀昌宏代表理事=雑協副理事長、小学館社長=)は、コミック本にICタグを高速で埋め込み装着する実証実験を2月27日、共同製本(東京都文京区、金子誉社長)の浦和工場(さいたま市桜区)で行った。 JPOでは02年から出版物へのICタグの装着に向けた研究や環境づくりを進めており、コミックへの装着はその手始め。製本現場での装着実験は07年から進められており、今回の実演は過去3回の実験で挙がっていた装着システムの課題を修正して最新版として公開したもので、高速運転での装着精度の見極めや、新たな課題の抽出が行われた。 実験チームでは日立製作所、トッパンTDKレーベル、東京都製本工業組合とともに、装着技術の開発を進めてきた。研究での製本形態は現在、無線とじの背の裏にタグが埋め込まれている格好となっている。 一連の研究でのタグは日立製のもので、これを粘着ラベル化し、長尺のロールが作られる。この日の実験ではまず、下ごしらえとして、表紙の背の裏にあたる位置に1枚ずつ、タグを接着した。ラベル化されたタグは天地95㍉、左右7・7㍉。 ロールをトッパンTDKが作ったラベラーに装着し、ラベラーのフィーダーに枚葉の表紙を積むと、1枚ずつ流れていき、タグが貼り付けられた。ラベラーは毎時1万枚以上の速度で連続稼働された。 金子社長は「このタグ付きの表紙は、重ねていくとタグの厚さの分、中央が膨らむため崩れやすく、無線とじ機の表紙フィーダーまで運搬する際の傷や擦れ、汚れが課題」としており、実演の途中、表紙100枚をパレットに平積み▽当て紙結束▽段ボール箱に縦積み――の3種類の荷姿のバリエーションを示し、出席者に確認を促した。 続く無線とじラインでの製本実演では、表紙と本文が接着される工程が公開された。一般的なコミックサイズ(天地176×112㍉)で、表紙に「パールデラックス」、本文にコミック専用紙を使用、16ページ折丁12台・192㌻で束厚12㍉の製本を行った。接着剤は一般的なEVAホットメルトを使用して行われた。 出来本では、タグが背の中に装着されていることが見た目には分からない状態だった。参加者は外観や汚れ、傷の有無などを確認した。出来本の品質については特に、指摘はなかった。表紙の工場内搬送時の傷や擦れ、汚れの懸念については金子社長が後日、報告することになっている。 ラベラーで表紙の背の裏にICタグが装着(実演で)
ICタグを装着した表紙。中央部が膨らむため、荷姿が不安定。
課題調整を継続
JPOでは02年、万引き防止などを目的としたICタグの可能性を研究するため、ICタグ研究委員会(田中弘一委員長=角川グループパブリッシング常務=)を設置している。製本段階での実際の装着技術開発については同委員会内の装着・古紙化部会(部会長は田中委員長が兼任)が進めている。 JPOがタグの導入をコミックから進めるのは、書店での万引き被害が金額、冊数とも圧倒的に多いのが大きな背景にある。コミック1冊1冊にタグを装着し、書店での販売情報が書き込まれていないものは新古書店で買い取らないというルールを徹底することにより、万引き被害の一部を防止することができ、費用対効果が高いとみている。 一方、出版関連業界では、物流効率化の手段としてICタグへの期待が強い。多品種少量流通、委託販売が慣習となっている同業界では、40%を超えるともいわれる返本率が経営の悪化材料となっている。また、書店や取次、出版社倉庫での入出荷検品や棚卸し業務などでICタグの複数読み取り機能の活用による数量把握の実現や、自動取得したデータをネットワーク上で共有することによる重複作業の削減などで業務が効率化されることを期待している。 出版関連業界全体が導入に踏み切るまでには課題もまだ、残っている。タグの装着は製本前の個断ちされた表紙の背の裏側に行うことが08年に合意されているが、タグに情報を書き込むのは出版社、取次、製本などのどの段階なのか現在、決まっていない。また、タグを構成するチップやアンテナ自体をラベル化するコストや、タグの不良を検査するシステムの導入コスト、書店や取次で必要となるIT投資などのコストなどの相互分担への理解も今後の課題だ。コミックという低額商品へのコスト転嫁を不安視する関係者もいる。 製本組合ではICタグ装着への対応を業界運動「製本業中期振興ビジョン」に盛り込んでおり、雑誌、書籍両部会を中心に業界を挙げて参画、技術提供や情報公開に積極的に取り組んでいる。 無線とじ前のタグ装着後の表紙の扱いについて、共同製本での実験に参加していた製本組合加入のある製本会社の担当者は「従来の仕事のように丁重に扱い、手間を掛ければ傷はある程度、防止できるのではないか」と語っているが、コスト増への不安をのぞかせていた。また、「外部の会社で表紙にタグを接着したものを当社で製本する際の輸送や、社内で表紙を運搬する際の縦積み用の通い箱のようなものをみんなで導入する必要があるのではないか」と想定する人もいた。 一方、JPOでは、自らの一連の装着研究で確立した技術のほか、1月28日に大日本印刷が発表した独自の装着技術の存在も把握している。ICタグ研究委員会幹事長の永井祥一氏(講談社営業管理部部次長)は「いろいろな装着方法が出てくるのはウエルカム(歓迎)」と広く構えており、「コード体系はすでに業界で統一されているので、早く、安く装着できるのであればどんな方法でもいい。出版各社が選べばいいということもある」と出版社の立場を説明している。 JPOでは今後、ICタグの導入に向けた調整が継続される。
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