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JAGAT会長 浅野 健 氏 JP2012への期待 3月13日に大阪の太閤園で開催された「プレJP2012」で特別ゲストして出席したJAGAT会長・NPO法人地域創生機構理事・センチュリークラブ会長としての浅野健氏が「JP展の新たな役割」と題して行った講演内容の抜粋。 街商人だからこそ出来る情報発信による街興し 昨年、大阪の天神橋商店街の素晴らしいプロデューサーにお目にかかりました。土居さん(土居年樹氏・天神橋3丁目商店街振興組合理事長)という70代の素晴らしい方ですが、その方のおっしゃった言葉が今でも忘れられません。自分たちのことを「街商人(まちあきんど)」と言います。 街商人がいなければ天神祭は開けない。自分たちは天神祭をやりたいからここで商いをしている。天神橋商店街に買い物に来てくれなくてもいい。大阪天満宮やこの道を歩く、この界隈のファンに来てほしい。結果として商いが成り立っています。街商人でなければ天神祭は開催できない。しかし、街商人だけでは消費者は満足しない。何が必要なのかというと、企業商人だということです。大切なのはそのバランスだとおっしゃっていました。 われわれもそうではないでしょうか。大日本印刷さんや凸版印刷さんの方は、私には直接言いませんが、東京のいろんなところで間接的に耳にするのは、われわれ中小印刷屋のことを彼らは街場と呼んでいます。自分たち大企業に対して街場の印刷工場だという感覚でしょうね。 街商人と企業商人、街場の印刷屋と大印刷会社、私は土居さんがおっしゃった街商人という言葉とわれわれは相通じる、あるいは通じなければいけないものがあるように思えてならなかったのです。つまり、大日本さんや凸版さんができないことを今、われわれはできるのではないか。 印刷物からの利益、彼の目的はそこにはない 二つの例をご紹介します。東京を中心にマーチング委員会、運動というか、ビジネスモデルが生まれています。最初に考えだしたのは文京区の湯島にあるTONEGAWAという会社です。 あるとき、利根川英二社長が小学校のクラス会に出たそうです。そうするとクラスメートから、「利根川さんのところは何部から印刷してくれるの。まさか私たちの仕事なんて受けてくれるわけがないわよね」と言われたそうです。 利根川社長は、そこで目からウロコが落ちた。なぜ彼女はそう思ったのか。自分は印刷会社ですが、決して大きなスケールの印刷会社ではありません。それにもかかわらず、「何部から刷ってくれるの。私の注文なんて聞いてくれるはずないわよね」と、なぜ彼女は決めつけているのか。そこに自分たちのおごり高ぶりがあったと彼は感じたそうです。そして、印刷という手法で、湯島本郷という地域の街興しをやろうと決心したそうです。 目的は街興し、湯島本郷界隈の名所旧跡と呼ばれるところ、あるいは皆に見てほしいところを、同じ小学校のクラスメートがたまたまイラストレーターだったので、彼に頼んで絵を描いてもらいました。そして、それを絵はがきにして、その地域のお店に置いてもらいました。これがマーチング委員会のスタートでした。 目的は印刷物づくりではないのです。目的はまちおこしです。手段として絵はがきを作った。絵はがきですから、どんなに多くの方に買っていただいたとしても、印刷のロット的にはそれほど大きくなるはずはないし、印刷物から得られる利益はわずかなものでしょう。しかし、彼の目的はそこにはないのです。地域の活性化、自分たちの生まれ育った街をもっと知ってもらおう。もっと多くの人に来てもらおう。まさに天神橋の土居さんと同じです。手段として印刷を使う。たまたま彼が印刷会社だったこともあるでしょう。今や、それぞれの地域で70社ぐらいに増えているそうです。全国区になっています。 観光資源は、自分たちが気づいていないだけで、どんな街にもあるはずです。それを絵はがきにして多くの人に知ってもらおう。再認識してもらおう。そしてファンになってもらおう。「印刷という手段」で、ということです。 全国のマーチング委員会を束ねる全国版マーチング委員会ができて、次は何をやろうか。行政の方たちの名刺に、その風景を小さく刷り込むなど、さまざまなことを考えているようです。こんな動きがあります。 一部いくらではなく、橋渡しするプロデュース力で もう一つ、私が理事を務めている「地域創生機構」があります。地域創生機構は、最初のスタートはずいぶん前です。例えば日本の街並み、今日も新幹線の車窓からずっと眺めていました。空気がきれいです。色彩が統一されているところはきれいに映る。京都はいいですね。しっとりとして、屋根瓦は黒っぽい。それが横浜に近づくにつれて、赤くなったり青くなったり、青い家の隣に赤い屋根瓦があったり、話にならない。 皆さんも思い起こしてください。やたらと消費者金融の看板が街で目立つようなころがありました。街の美観もないということで、DICになりましたが、大日本インキさんの下泉さんという、現役を引退される方が何とかしよう。もう少し色に対して繊細になろうという運動を始めました。それが多くの方の共感を得て地域創生機構ができて、それなりの成果を上げて休眠状態になりました。 休眠しているNPOに目をつけたのが、下泉さんと大日本インキで同期だった名古屋の西川コミュニケーションズの西川社長です。この方はいろいろ引き出しを持っている方で、今は全国の有機栽培農家で、無農薬、無肥料。無農薬まではいいですが、肥料も使わない農家もあります。在来種の種を大切にしている方もいます。堆肥を使えば有機栽培かというと、そうではなくて、堆肥の成分もいろいろあるから調べなければいけない。 スーパーで野菜がどう売られているか、思い出してください。ケースの中に入っています。このケースに合わせて野菜の寸法が決まる。流通用のダンボールケースの規格が決まる。本当は、あと1週間待てばもっとおいしくなる。でも、1週間置いておくと、あのケースからはみ出すから1週間前に刈り取って出荷します。こんなことが当たり前に、日常的に行われているのだそうです。 丁寧なものづくりをするので大量にはできません。しかもキュウリは曲がっています。ホウレンソウは伸びています。でも、おいしくて体にもいい。だけど売れない。なぜなら、大量に作れないから大手の流通に乗らない。ケースに入らないから運ぶのが面倒だ。何が違うのか。片方では、アレルギー性の体質の方、そういうものを望んでいます。そういう方に、そういう農家を紹介できないか。これが西川さんの大きなテーマでした。 スローライフ、スローフードを研究するなど、いろんなことをしていましたが、今、西川さんが情熱を傾けているのは、お米も含めて健全な野菜作りから始まって健全な食べ物作り。能登の海で取れたブリの粕漬け、その粕も体によいもの、そういうものを全国で作っている方たちを、それを必要としている人たちに紹介したい。 そして、生産者の方たちに何がお困りですか。もちろん流通がないから売れないのが一番困る。欲しがっている人をぜひ紹介してほしい。こういうときに必要、あるいは効果を発揮するのが電子媒体系です。ツイッターでもいいし、フェイスブックでもいいし、ホームページでもいい。これは格安に多くの情報を多くの人たちに知らせることができる。そうすると、その中から、そんなよいものなら私も欲しい。欲しがる人がいます。 出荷しようと思って、何に困っているかというと印刷物、パッケージを含めて印刷物だということがわかりました。連合さんが作っているダンボールがありますが、規格外だから使えない。オリジナルです。オリジナルだと小ロット、生産者の顔も見せたい。よくありますね。 本当にまじめに作っている。何がまじめだということも伝えたい。どうやって伝えるのか。製品と一緒に伝える。これは電子媒体ではダメです。印刷物です。パッケージも含めて印刷物で、苦労しています。そこで西川さんが、この方たちをサポートするために、われわれが手を回そうではないか。われわれには、全国にさまざまな印刷分野の専門家がいます。軟包装、板紙、デジタル、カラー、さまざまいます。全部持っているのではなくて、そこに頼めばいろんな方のネットワークでワンセットそろえられるということです。 考えてください。先ほどの利根川さんは利益が目的ではなかった。まちおこしです。でも、その地域が潤っていろんな方が来れば必ず後になって商売になる。天神橋商店街と同じです。西川さんの活動は、生産者から消費者に渡る製品、マージンは取らないと言っている。では、どこで? そんな少量では売り上げにも利益にもならない。赤字でやるのは勘弁してよ。印刷物だけ受注しようとするからそういうことになるそうです。 つまり、健全な食品作りに励んでいる人たちと、それを必要としている人たちをつなげるプラットフォーム、システムを考える。野菜のブランドも考える。バイヤーも考える。プロデュースする。一部いくらではなくて、全体が橋渡しをするのが町の印刷屋さんの仕事になってくる。 天神橋商店街を歩きながら、こう考えた。そうか、この天神橋商店街から情報発信をする。あるいは全国の天神橋ファンからの情報を受信する。コミュニティFM局、それが印刷会社であってもいいはずです。見事にそれをされている方がいます。そういう方の存在があって、天神橋商店街には最近、観光客が来るようになったそうです。 今お話をしたマーチング委員会、地域創生機構、印刷会社の発想です。しかし、印刷物を無理やり作らせて印刷機を回そうという発想ではない。片方はまちおこし、片方は生産者とそれを必要としている人の橋渡し、それを自分たちがプロデュースしようということです。そして共通しているのは小ロット。 大阪に代表される近畿経済圏・近畿文化圏から旋風を こうした印刷業界の動きを考えながら、JP2012の役割を考えて見ます。これは私見であります。小ロットを徹底的に追及する機材展があってもいいじゃないですか。 今年はdrupa、来年はIPEX、大きな展示会は国際的にいえば毎年開かれています。北海道でも九州でも、それぞれの地域の展示会が開かれています。しかし、明確な主張のある展示会がどこにありますか。 実はPAGEも毎年コンセプトを発表しています。この2月のPAGEは、大文字のPAGEから小文字のpageへ、原点回帰でした。同時に「ePowerで新領域へ」ということを言っていますが、はたして、これは会長として懺悔しますが、本当に出展者の皆さんとその気持ちが通じ合っていたか。もっと言えば、何を言いたいのか、わからない。 しかし、小ロットといえば、オフセットメーカーもデジタルも、あらゆるものが小ロット、極少ロットに照準を合わせて、こんなものができる。こんな印刷機がある。そんな展示会があれば、全国からも注目されるて、実際に足を運ばれるのではないですか。 私たちは、家業から企業へまっとうな努力をしてきた。しかし技術環境が変わった。社会環境も変わった。価値観も変わった。天を仰ぐのではなくて、この環境の下で私たちはどうあればよいか。 私は今こう考えています。家業から企業にした。企業から工房にしていこう。工房って何でしょうか。私のイメージは、中には怪しい人も含めて、ワイワイ言いながら集まってきて、そこで何をやろうか、どんなものを作ろうか、いいものを作ろうぜ、とワイワイ言いながらいいものを作っていく。皆さんの会社がそのままが工房になるとは言いません。しかし、そんな工房が皆さんの会社の一部門にあってもいいじゃないですか。そこから発想の転換が始まる。 まさに会社の中にコミュニティFM局を作るようなものです。情報の受信基地でもあり発信基地。何の情報か。自分の会社の情報ではない。まさに、その地域の素晴らしさを発信していく。そして全国の素晴らしい人たちからの情報を受信する。それを生かして、さらに魅力のあるまちづくりをしていく。こんなことに私たち印刷業が衣替えをしていく。そのような機能を持つ。 そのときに何が必要なのか。JPに行けばいろんなものがある。提案している。どうでしょうか。これは私の私見です。皆さんはどう思われるかわかりません。ただ、私は、JPには明確な主張がある。明確な主張は大阪だからできる。わかりやすい。大阪には商いの哲学、道徳があります。売り手も買い手も世間もすべてよし。だから、私は大阪に来て儲けるという言葉を聞いても素直にうなずけます。 東京で儲けるという言葉を聞くと、何か悪いことをしているのではないか。搾取しているのではないかと思います。それはなぜかというと、商業の哲学が東京にはない。職人の町です。全国の大名さんが職人を連れてきた。だから、宵越しの銭は持たない。飯も立ち食いです。食道楽の大阪とはまったく違います。 ぜひ、大阪から日本を代表する大きな経済拠点であるという地位を取り戻してほしい。そして、きれいな大阪弁が使える人たちを増やしてほしい。今はダメ、みんな吉本だから、河内弁ですね。もっとはんなりしています。京都の街場言葉から大阪弁が生まれたと土居さんから伺いました。 この大阪に子どものころから強いあこがれを持ち、何度来ても、ここはアジアだと思ったり、天竜川を渡るときにパスポートチェックがあるともっとわかりやすいのにと思ったり、なぜ、あのまま、いまどき残されているのだろうかと思ったり。 大阪に代表される近畿経済圏、近畿文化圏から大きな旋風を、橋下さんだけではなくて、皆さんにも起こしてほしい。それが、どうにもならない今の日本を救う唯一の道ではないかと、道々考えてまいりました。 どうか、JP展が大成功に終わりますように、皆さんで知恵を出していただければと願っています。ありがとうございます。
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