税務経理は管理部門だけの話ではない 連載⑯

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指導 慶福税理士法人

役立つ財務の知識⑩

税務調査編

 

会社の部署や立場により、話は聞くけど本来の業務ではなく、良くわからない「もの」のひとつに「税務調査」があるかと思います。会社経営者、経理担当、個人事業者などでしたら少なからず経験があるかと思いますが、それでも経験は少なく、実態を正確に理解できている方は多くないと思います。

そんな方が税務調査と聞いて思い起こすのは何でしょうか?テレビドラマや、新聞紙上で大手企業や著名人の申告漏れや巨額脱税事件のことでしょうか?黒いスーツを着た査察官が何人も登場して段ボール箱に沢山の資料を押収し、持ち帰る。そして何日もかけて証拠を分析して起訴をする。そんなマルサの仕事をイメージするのかも知れませんね。

しかし、実際の「税務調査」特に中小企業を調査する税務署の仕事はもっともっと地味です。しかし、その中には、申告内容の是非以外に、外部から企業を見る目が十分に発揮され、思わぬ収穫があることもあります。そんな中から、皆さんに興味深いものをいくつか紹介していきたいと思います。

税務調査で、まず第一にやる確認事項は売上の確認です。これは基本中の基本ですから税務調査があれば必ず、収入の計上が漏れていないかどうかということを確認します。

売上代金が会社の預金に振込みされたり、小切手や手形で受取る場合は必ず、記録が残りますので、売上の計上漏れは起こりにくいのですが、現金商売と言われる、町の小売店、飲食店などでは、売上伝票の作成、レジの利用等で現金の出入りを確実に記録しないと管理が出来なくなってしまいます。個人商店では大概事業主であるご主人か奥さんが売上金の管理をしておられます。そして少々間違いがあっても自分のフトコロのことなので、本人としては諦めがつきます。

また、調査で指摘されても「身から出た錆」です。しかしこの売上の管理を社員やましてはアルバイトに任すとなると経営者は真剣に考えます。どうしたら確実に管理できるのか、売上のごまかしや間違いがないかどうか確認する方法はどうか、などです。

税務署の調査も全く同じアプローチなのです。正しい売上の確認をするのにはどうしたらよいのか、実際の業務の流れを確認しながら、売上の把握方法を探っていきます。売上管理の方法を聞くのは税務署の調査官が一番かも知れません。彼らは様々な売上の間違い、あるいは不正を発見し正してきた経験がありますから。税務調査で社員の横領が発覚した、なんて事があれば目も当てられませんね。

もっとも、管理の基本は、毎日の記録と実際の現金預金の確認です。現金預金の確認は簡単ですが、「記録」は工夫が必要です。複数人による複数の記録で後日でも確認の出来る「記録」をつけることが肝心でしょう。

 

中小零細企業における税務調査で、比較的指摘を受けるもののひとつに経営者の個人的な支出を会社の経費に付け込んでいないかどうかという問題があります。

たとえば、経営者の家族での外食費を「接待交際費」や「会議費」としていたり、子供の文房具まで「事務用消耗品」になっていたり、私的な交通費、ゴルフのプレー費などきりがありません。

随分昔のはなしですが、印象に残っていることがあります。ある土木工事業の法人の調査のときです。経理担当は経営者の奥さんがしていましたので、調査のときの立会いも当然同席して、帳簿の内容の説明を税務署員にして頂いていました。当時はまだ、バブル絶頂の頃で、景気が良く皆さん随分羽振りが良かったときでした。調査担当官が1枚の伝票を指し示して、「この「○○マリーン」と言う店は何ですか?」と聞くと、奥さんはすかさず「このあたりで有名なダンプ屋ですよ、ご存じないですか?」と問い返しました。土木工事の仕事をしており、自社でダンプカーを数台保有していましたので、その関連の経費だと言う意味です。すると調査官は「そうですか、他にも何件かこちらへの支払がありましたので」と言ったきり、そのまま別の資料に関心を移してしまいました。そのままこの支払に関する指摘は無かったのです。

実は、私は奥さんが最近4級船舶の免許を取り、ジェットスキーにはまっていることを知っていたので、後日確認すると、「終わったことには触れないでおきましょう」との事。納税者の味方の私はそれ以上の追及はやめましたが、あのときの断定的な返事の見事さ、調査官を勢いで納得させてしまう話術に感服した経験はとても印象的でした。人はごまかそうとするときには、やはりなにがしか、態度に出てしまうものなのですが、一瞬私自身も「ああ、そうなのか」と納得していました。更に、当然、領収書の相手先がどのような業者なのかは、調査官が自分で確認するのが普通で、通常はそのようにしていて、伝票内容と違う支払はすぐにばれてしまうのがオチなのに、そこまでやる必要が無いと思わせた奥さん、あなたはスゴイ!! しかし、公私を分けることは徹底しないと、相手だけではなく自分自身もごまかしてしまうことになります。せっかく計算した決算書も数字があてにならないということになります。何が本当に会社の経費なのかしっかりと把握するためにも、公私の区分はしっかりしましょう。

 

これまた、税務調査でたまに発覚する問題に、販売商品の横流しや、社員個人宛のバックリベート等があります。

販売商品の横流しに関しては、最近IT技術の進歩により入出記録が正確に管理できるようになり、ほとんどなくなったかと思いますが、依然手作業で管理されているところはやはり、商品の管理に気を遣わなくてはなりません。結構、まとまった量の商品が横流しされたり横領されたりすることが現実問題としてあります。販売用の商品だけでなく、文房具やトイレットペーパーなどの備品を個人的に持ち帰るなど、こんな不正も、なさそうで結構あります。また本人の意識は無くても私用電話、私物の電子機器の充電等、厳密に言えば正しくは無いでしょう。貴社の商品が思いもよらないところに販売されていて、税務署から、売上が漏れていないか、など指摘されて気がついても手遅れです。

税務署の原価の確認方法としては、購入された資材がその会社の販売物なのか、消耗品なのか、その物資の行方を確認すると言う手段を使います。この確認によって売上の漏れ、在庫の計上漏れがないか、税務上の経費として、交際費、寄附金、役員賞与、社員の給与に該当するものは無いかどうか確認することで、税務申告上の間違いが無いか確認します。贈答用に購入した商品券でも、その商品券をいつ誰にどのような目的で配布したのか記録していなければ、経費としては認めてくれないこともあります。当然手元に残っていればそれなりの経理処理が必要です。

零細企業では、総務・経理を任されている人にとっては、切手や印紙、はがきなど結構自由に使用できる環境にあります。そうなればついつい公私を混同してしまうようなこともありますので、お互いに気をつけましょう。実際税務調査で、宅配便の送り状兼領収書の中に、経理の人の個人的な費用が混ざっていたことがありました。そのときには、社長・税務署も穏便に処理しましたが、こういうことは無いに越したことはありません。

実際、中小企業では、経営者の目が届き易くそのあたりの管理は緩くなっているかも知れません。しかし規模が大きくなるとそれなりの管理をしなければ、経営者の目も行き届かず、いざと言うときの数も多く損害の金額もやはり大きなものになってしまいます。

これらの防止にはやはり、一定のルールを作成し、面倒でも記録・管理をすることが一番効果があるでしょう。そして、それが税務署に対しての正当性の説明資料にもなります。「一事が万事」「これくらいは良いだろう」が、だんだんとエスカレートして、大きな不正につながります。「出来心」を起こさせないことも管理者の責任です。くれぐれも気を引き締めてのぞみましょう。

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